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第80話 東和樹

Author: るるね
last update publish date: 2026-04-07 04:34:02

 月乃は焦ってはいなかった。ソファに腰を下ろし、指先で乱れた髪を整える。ふと思い直したように、あえて少しだけ髪を崩した。

 そのほうが、より弱々しく見える。

 さらにドレスの胸元をそっと引き下げ、谷間がより目立つように整える。

 どうすれば自分がいちばん哀れに見えるか。そして同時に、男の目を引けるか。

 そんな計算を巡らせながら、月乃は静かに準備を進めていた。

 彼女の思惑は完璧なはずだった。

 ――だが、戻ってきたのは鷹宮ではなく、別の男だった。

 扉が開く。

 そこに立っていた男は、口元に意地の悪い笑みを浮かべている。部屋へ入るなり、背後で扉を閉め、そのまま無造作に鍵を掛けた。

 カチリ、と乾いた施錠音が、静かな室内にやけに大きく響く。

 月乃ははっとして立ち上がった。男の顔を見た瞬間、その顔色がさらに白くなる。

「……東和、樹」

「せっかく久しぶりに再会した同級生なのに、いきなりフルネームか?ずいぶん他人行儀だな。高校の頃みたいに、“樹くん”って呼んでくれたほうが嬉しいんだけど、月乃ちゃん」

 男――東和樹とうわいつきは、くつくつと喉の奥で笑った。

「……い、樹くんが、ど
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